こころの法話集110
お話110
仏さまのお慈悲働く
坂井町御油田・演仙寺前住職 多田淳政
心の弱い私
人間は心身ともに弱いものです。鬼をもひしぐような力士でも、脳の中の血管が一本切れるだけで、再起不能になってしまいます。それを思うと、こうして七十年も元気に生きさせてもらっているのは、本当にありがたいことですね。
心もその通りです。どんなに道徳心の堅固な人でも、心の奥底に潜む我欲の心は取り切れず、いよいよになると、どんなあさましい所作をもしかねないのが人間であります。
因幡の源左さんはこう言っています。
「わが心はなんぼ聞いても愚痴もやまず、喜びづめにもなれんのだがやなあ。それが直れるやつやったら、親さんは凡夫とはおっしゃらんだけのう」
心身ともに弱いと言えば、生まれたばかりの赤ん坊ほど弱いものはないでしょう。しかし、その弱い赤ん坊なればこそ、それを育て上げねばおかぬという、親の心が働くのです。それと同じように、このあさましい私なればこそ、仏さまのお慈悲が働いていて下さるのです。

源左さんは、こうも言っています。
「だれが悪いの、かれが悪いのというても、この源左ほど悪いやつはないでのう。その源左を一番に助けるとおっしゃるので、ほかの者が助からんはずはないだがや、ありがたいのう」
よくよく味わいたいものであります。