こころの法話集169
お話169
夢と酔いから覚めよ
大野市状石・常興寺住職 巌教也
人間一生酒一升
あるお寺の掲示板で、私はこんな言葉に出会いました。
「はかなきは人間一生酒一升 有るかとすればやがて無きかな」
蓮如上人の「白骨の御文章」は有名です。お通夜の時など拝読し、また聞かせていただくと、“一生すぎやすし”の言葉が、身にしみて感じられます。
先の掲示板の歌は、人間の一生を、酒の一升になぞらえて、私たちの人生にささやいてくれる、味のある言葉だと思います。
そこをもうひとひねりしたのが「一升は夢のごとし」という、昔のことわざではないでしょうか。
「いろは歌」は「色は匂へど散りぬるを、わが世たれぞ常ならむ、有為の奥山今日越えて、浅き夢見じ酔ひもせず」でありますが、「浅き夢見じ酔ひもせず」の、夢と酔いからまず覚めることと、無常と迷いの多い、私たちのたどる人生の姿を教えていてくれるようです。
仏さまとは、夢を見ない、迷わない、目を覚まされた方でありました。
だから覚者と申しあげるのであります。
そこで大正生まれの私は、ふっと「人生の一生一升ならば、せかず味わう後二合」とつぶやいてみました。