こころの法話集160
お話160
如来の大悲を楽しむ
東京・大東文化大教授 五十嵐明宝
妙好人シリーズ②
清九郎は如来の大悲に抱かれて恵まれた世界に住み、柔軟心の人になっていました。ある時、彼はたきぎを売りに出ましたが、たきぎの買い人が難くせをつけてひどく値切った時にも、清九郎は少しも争わず、相手のいうように負けて売りました。その後、人々は彼のたきぎを値切らなくなったといいます。
清九郎には「こまん」という娘がいましたが、この娘にほれたのが隣村の久六というばくちを打ち、けんかの好きな悪徒でありました。清九郎は久六の中にも優しい気性を見い出して養子にしました。
人々はその後の成り行きを心配していましたが、久六はわずか一月もたたぬうちに悪事もやみ、その上、親にも孝行を尽くし、また法義を喜ぶ人になったのでした。人々は清九郎の信徳のあらわれと感じ入ったといいます。

清九郎は晩年、玉譚という人とともに越中に行ったことがありましたが、その帰り道、泰巌という人が同道し、彼は清九郎のために馬を雇ってやりました。初めて馬に乗った清九郎は「本願の船に乗り、またその上に馬に乗り、さてさてありがたや、なむあみだぶつなむあみだぶつ」と喜んだといいます。彼は摂取不捨の大悲を心から楽しんだひとであったのです。